2001.2.14.更新

中将棋の指し方    七段 岡崎史明

 ここでは、たびたびルール議論の引き合いに出されています、「岡崎ルール・指し方ルール」の原文をそのまま掲載し、手元に置かれていない方のためにも公平な議論を期するために紹介していきます。なお図面は基本的に省略させてもらいますのでご了解ください。

 

はしがき

 戦前といっても昭和三年頃から、十三,四年頃までの話だが、中将棋を指す人が、だいぶ居られ、盛んに指したものだが、戦後はめっきり少なくなった。

 それでも二十二、三年頃まで、故木見金治郎先生にだいぶ指していただいたが、それが終いで、いまでは大山名人のほか、中将棋を知っている人は、全国で十指に満たないのではなかろうか。

 三年ほど前、東京の東急百貨店で催された「将棋まつり」に、大将棋の盤と駒が出品されたそうだが、残念ながらいまでは、その駒の働きや対局規定など、さっぱり判らないと聞いた。

 中将棋もそんなことになりかねない運命にあるが、幸い私たち数人がまだ指し方を知っている。それと以前に同門の灘八段からいただいた”中将棋指南抄”という本が私の手元にある。

 それを参考にして、中将棋の指し方を、会員諸氏にお伝えしておくことも後世のため必要と信じ、ここに筆を執らせていただいた次第である。

中将棋の規定

(1)中将棋は盤面タテ十二格、横十二格で、総格百四十四。駒数は九十二枚。取った駒は使わない。

(2)盤面、駒がれになって、玉二枚、成金一枚が残れば、成金のある方が勝ちである。

(注)駒がれとは盤上に駒が残り少なくなったことをいう。

(3)駒を成るときの規則

 駒は敵地の四段目に入れば成れる。この時、不成で入れば、つぎの手では成ることが出来ない。(これが、いまの将棋と違う点である)ただし、駒を取れば、成りかえることが出来る。

(4)その他の規則

お手付きをした駒は必ず指し進めなければならない。

千日手は仕掛けた方より変えなければならない。

(注)待ったの禁と、将棋の昔の千日手の規定と同じ。

駒の性能

獅子の規則

(A)足のある獅子は、獅子で取れない。(足とはつなぎ駒のあることをいう)

(B)先獅子の規約

 敵の獅子に味方の駒が当れば、これを取ることが出来る。この時、敵の駒がわが獅子に当っていても、足のある場合は直ちに獅子は取れない。一手間をおいてからでないと取れない。これを先獅子という。先手の得である。

(C)獅子の付け喰い

 獅子と獅子の間に敵の駒があれば、その駒と共に獅子を獅子で取ることが出来る。これを付け喰いという。

 この場合は敵のつなぎ駒で直ちに獅子を取ることができる。これを獅子をうつという。歩、仲人は付け喰いにならない。

(D)獅子の居喰い

 居喰いというのは、獅子に当った敵の駒を、居所を動かずに取ることである。解りやすくいえば、獅子は一手で二場所動けるから一駒を取っていって、もとの居所に帰ったことである。飛鷲、角鷹の居喰いも同じ。

 獅子、飛鷲、角鷹は駒を取らないでも居喰いと同じように、行って戻ってくることができる。これは終盤戦で駒を動かさないほうがトクな場合に使う手段。「じっと」という手段である。

(E)獅子かげの足

 ウラ足ともいう。足のない獅子を、足のある獅子で攻めたとき足のない獅子の方は、わが獅子の反対側から敵獅子に走り(第2図における角行)を当ててわが獅子に足の付くことをいう。この場合は足のある獅子と同じ。

(付け喰いと居喰いの例題第1図)省略

(かげの足の例題第2図)省略

駒の行動とその図

獅子(しし)    接近戦に強く、序、中盤戦に威力がある。

(A)@は居喰いできるところ    Aは行けるところ。わが駒、敵駒をとび越して行く。

(B)敵玉がAにある場合は王手で、間い駒が利かない。

(C)一手で@@、または@Aと敵の二駒を取っていける。この場合は出発して二駒目で止める。

麒麟(きりん)    スミ四方に一目行く。前後左右は一目飛び越して行く。成れば”獅子”

奔王(ほんおう)    中、終盤に威力ある。八方走りだが、間駒があれば突き貫けない。

鳳凰(ほうおう)    前後左右に一目行く。スミは一目越して行く。成れば”奔王”

飛鷲(ひじゅう)    終盤もっとも威力がある。六方走りで、前方スミ二方は、二目突き抜く。

(A)Aに玉がいれば間駒利かずの王手で、獅子と同じ。

(B)@は居喰いできる。@Aと敵駒二枚取って行ける。

(C)@の彼我の駒を飛び越してAへ行ける。

龍王(りゅうおう)    将棋の竜と同じ性能。成れば”飛鷲”

角鷹(かくおう)    七方走り、前方は二目突き抜く。

(A)(B)(C)飛鷲と同じなので省略。

龍馬(りゅうめ)    将棋の馬と同じ。成れば”角鷹”

飛車(ひしゃ)    将棋の駒と同じ性能。成れば龍王。

角行(かく)    将棋の角行と同じ働き。成れば龍馬。

飛牛(ひぎゅう)    六方走り。(文章での説明ないが、横以外の六方向)

竪行(しゅぎょう)    前後走り。左右一目行く。成れば飛牛。

奔猪(ほんちょ)    六方走り。(文章での説明ないが、縦以外の六方向)

横行(おうぎょう)    左右は走り。前、後は一目行く。成れば奔猪。

鯨鯢(けいげい)    前一方、後方三方走り。

反車(へんしゃ)    前、後走り。成れば鯨鯢。

白駒(はくく)    前三方、後方一方走り。

香車(きょうしゃ)    前方走り。成れば白駒。

酔象(すいぞう)    七方一目行く。成れば太子。(後ろ以外の七方向)

太子(たいし)    玉将と同じ。太子があれば、玉がなくてもよい。玉と太子があれば王手がない。また、一方を小駒として扱う。

盲虎(もうこ)    俗にめくらという七方一目行く。成れば飛鹿。(前以外の七方向)

飛鹿(ひろく)    前後走り、六方一目行く。

金将(きんしょう)    将棋の金将と同じ。成れば飛車。俗にきんびしゃという。

銀将(ぎんしょう)    将棋の銀将と同じ。成れば竪行。

銅将(どうしょう)    前三方、後一方。成れば横行。

猛豹(もうひょう)    六方一目行く成れば角行。俗にちょろかくという。

歩兵(ふ)    前方一目行く。成ればと金。(将棋のと金と同じ。)不成で行けば、二手目に成れず、三手目に進み、四手目にと金に成る。これは歩だけの規則である。

仲人(ちうにん)    前後一目行く。成れば酔象。仲人が不成で行った場合も歩と同じ。

駒の格

1 獅子

2走り    奔王、鳳凰、飛鷲、龍王、角鷹、龍馬、飛車、角行、飛牛、竪行、奔猪、横行、鯨鯢、反車、白駒、香車、飛鹿

3小駒    麒麟、酔象、太子、盲虎、金将、銀将、銅将、猛豹

4歩    歩兵、仲人

 中将棋の駒(二十八種類)を大別すると、右の四種で、駒の格は序盤では頭記の算用数字の順序通りである。

 初心のときには、駒の交換で損をすることが多い。ことに鳳凰、麒麟は、成れば最高の駒だが、そのままでは麒麟は小駒、鳳凰は走り(角行より少し劣る)で、この点注意を要する。

 また獅子は序、中盤には無類の威力を発揮するが、終盤は奔王、飛鷲の力がまさる。

 また、角鷹は麒麟や盲虎の大の苦手である。

 終盤では駒が成りやすいものだが、それを防ぐには横行や金飛車がいい駒である。

 序盤と終盤では、駒の格に変化が起ることを知っていただきたい。

中将棋の指方

 中将棋も将棋と同じように、玉将を詰ませば勝ちとなる。なにぶんにも駒が多い(九十二枚で、将棋四十枚に比べ二倍強)ので、急には勝負がつかない。しかし、取った駒は使わないから、存外将棋よりやさしいし、早くすむ。

 古来、中将棋には定跡がないといわれるが、定跡に似た序盤の駒組みがあるし、心得も残っている。

心   得

1 獅子を陣頭に出す。

2 敵獅子を付けられないようにする。

3 駒に足をつける。

4 大走りを下段におく。

5 小駒でくり出すこと。

序盤の指し方

 左に掲げたのは、序盤の指し方の一例である。

▲6八獅子    ▽7五獅子    ▲8八歩兵    ▽5五歩兵    ▲6七獅子    ▽8五歩兵
▲5八歩兵    ▽3五歩兵    ▲3八歩兵    ▽2五龍馬    ▲10八歩兵    ▽10五歩兵
▲2八龍馬   ▽11五龍馬    ▲11八龍馬    ▽12五歩兵    ▲1八歩兵    ▽12四横行    ▲1九横行    ▽6五歩兵

持将棋

 中将棋の終盤には、持将棋の出来ることがある。それは敵の残り駒と、わが方の残り駒がニラみ合って、勝敗がつかないと見た場合である。

 それは気力が充実すれば、その判断は非常に簡単である。

(以下略)

 以上です。この中で重要なポイントとなってきたのが、駒を成るときの規則・歩兵の特例・獅子同士のの居食に関する記載です。この記載の仕方が、これまで私たちが誤った解釈をしてきたと指摘されましたその元となる記述です。

 

中将棋指南抄・原文

(一部補足修正を加えています)

 それ中将棋は駒数九十二枚にして、駒は取捨也、盤の面、駒かれになりて、玉二枚、成金一枚一方にあれば、金一枚にてもつめるなり、

一.成駒はてき地へ入る時なる也、す馬(成らなかった駒)にて入、二の手には成らず、てきの駒をとりては、内にてもなる也、

一.将棋さしやうは、小駒にて大駒をおとす、或は玉と獅子とに、角などかけておとすやうに大駒をおとす時は、おのづから駒多き方勝に成也、

一.詰様の事、作物一番々々の頭書にいたし候右之盤、合紋のごとく十二支と御引合、御指し御覧に成被可候、

獅子の法

一.獅子は手前の獅子と、てきの獅子、一目間につきあひても、てきの獅子につなぎ駒あれば、獅子にて、獅子をとらぬ也、然れどもてきの駒両方の獅子の間に何にてもあれば、其駒共につけ取候へば、喰添とて、獅子にて獅子とる、其獅子をてきのつなぎ駒にて直に取也、是を楽に獅子をうつといふ、又はなれたる獅子は獅子にて取、又両方の獅子はしり駒にあたれば、先手より獅子をとる、後手其次に獅子をとらず、一手へて取也、先獅子とて先手の徳也、又歩はくひそへにならぬ也、

一.獅子のゐぐひといふは、獅子のまはりに有る敵馬を、つぎの手にて取、其座をなをらず居る也、飛鷲角鷹のゐぐひも同前なり、

一.獅子のかげのつなぎといふ事あり、はなれたる獅子を、つなぎあるかたの獅子にておとすやうに獅子を出すとき、其敵獅子へあて、手前の獅子までつなぐやうに、角行か竪行か何にてもはしりを、敵獅子のあとよりあてる、是をかげのつなぎとて、獅子を獅子にてとらず、ひらく也、

一.将棋指出しより二十手過ては、はしり馬王手にあたり、てきより是を見つけぬ時は、つきおとしとて勝也、

一.此書は中将棋初心のため、師匠いらずに指しならはしむるもの也、

 

元禄十六年未九月吉祥日

日本橋南詰    松葉軒蔵版