2004.6.6.更新
ここでは中将棋ルールの本編での紹介では複雑怪奇になるため本編に補足するかたちで、実際の対局で起こる可能性のある複雑な局面についての日本中将棋連盟としての見解と、ルール解釈が諸説ある特定のルールについて、より詳しく解説してまいります。また、2004年度の今回の改定でこれまでと解釈が変更されたものもありますのでそのあたりも解説します。
今回の改定により、不成の規定を一部変更しました。江戸時代の中将棋指南抄による解釈は以下の通りです。
@.駒が不成で進んだ場合、一度敵の陣地より外に出て、そこから入りなおしたときに成ることが出来る。
A.歩兵はその性能上、後退できないので、最後列(敵陣の一番奥の段)まで進んだ場合にのみ成ることが許される。
もちろん、敵の駒を取った場合はその時点でなりかえることが許される。
歩兵の救済規定については、江戸期の『中将棋指南抄』や、『中将棋絹篩』、明治42年の『将棊定跡講義』にも記載されているルールです。現在他の中将棋団体によってはこの規定が削除されている所もありますが、日本中将棋連盟では引き続きこのルールを採用することといたしました。
仲人についてもこれまでは歩兵と同様のルールを採用してまいりました。その根拠は岡崎史明七段が編纂した『中将棋の指し方』というルールブックに基づいています。当時はまだ京阪神地域でわずかに中将棋が指されていたこともあり、江戸期以降に京阪神で中将棋が愛好されてきたなかで、仲人もそのルールが適用されるようになったのではないかと考えられます。いわば岡崎ルールは江戸期の曖昧なルールブックを改良したものとして昭和の時代に策定されたルールブックでもあると思われます。ただ、現実的な局面において仲人は後進ができる駒であると言うことと、このような事例は成り忘れ程度にすぎないと考えられますので、この点に関しては古代のルールに準ずる形を今回とりました。
しかしこれでも一枚だけ不明な駒が残っています。「香車」に関しての不成規定です。
この駒はれっきとした「走り駒」ですので、不成侵入後は敵陣から退かなくては成りませんが、性能上後退の出来ない駒ですのでそれが出来ません。
不成で進める意味はその配置上の問題からしても全く無意味としか考えられません。そのため、これまで自明の理としてだれも明文化をしてこなかったのではないだろうかと考えられています。
そこに中将棋のソフト上の問題から新たにそういう場面も想定しての規定を設けるのだとしたら、ここは会長の個人的意見として、歩兵と同様の規定をあてることでいいのではないかと考えています。(現時点では通信対局上でのみ、救済措置としてこのルールを適用することといたしました。)
(今回、このルールの検討に当たっては中将棋研究家の岡野伸さんの助言を頂戴いたしました。)
獅子の特殊ルールについては、本編での説明をご理解いただければほぼ支障なく対局を楽しむことが出来ます。 ところが、実際の対局ではめったにおきる事が無いと思われる「獅子が3枚以上盤に並んでしまったときの局面」では、特殊ルールが同時に発生しているのではないだろうかと思うような事例や、とにかく解釈に悩むケースがいくつか出てしまいます。ここではそういう事例について日本中将棋連盟の見解と併せて紹介していきます。
(なお、この事例については「遊楽街」管理人の小西さんからいただいた質問をもとに紹介しています)
▲3三獅子が、2二▽金将を喰い、さらに1二▽獅子を取った(付け喰いが成立)後、
▽2一金将が1二▲獅子を取ることは可能ですか? 1二▲獅子には1三▲金将が足になっているので先獅子として取れないことになるのでしょうか?
回答…▲3三獅子は、2二▽金将を付け喰いする形で1二▽獅子を取っています。また、獅子で獅子をとった場合は先獅子とはなりませんので、▲獅子に足のある無いに関わり無く、討ち取ることが出来ます。
▲3三獅子が、2二▽獅子を喰い、1二▽獅子をとる(付け喰い)ことは可能ですか?▽の獅子にはどちらにも金将の足があるので取れないのでしょうか?
回答…隣接している獅子は無条件で喰うことが出来ますので、1二▽獅子も2二▽獅子を付け喰いするという形で取ることが出来ます。(付け喰いの駒は歩兵と仲人以外なら何でも可です)
先手▲1四飛車が、1一▽獅子を取った後、後手は▽3二獅子で4三▲銀将と5四▲獅子を付け喰いすることは可能でしょうか?
回答…この場合、先手が後手の獅子を飛車で取った時点で先獅子が成立していますが、後手は付け喰いが出来ます。これは獅子の特殊規則の優先順位と関係しますが、今回の改定以降、付け喰いは先獅子よりも優先します。この局面では結局後手が付け喰いを行い、そのあと先手の竪行で獅子が討たれます。結果として獅子が全ていなくなる形となります。
後手▽獅子には、仲人の足が利いているのですが、先手▲獅子は
2二▽仲人を喰い、2一▽獅子を取ることは可能でしょうか?
付け喰いの規定には歩兵・仲人は喰い添えの駒に出来ないとありますが、後手▽獅子にはその仲人しか足がありません。
回答…なんとも微妙なケースですが、後手▽獅子に足が仲人しかないというこのケースの場合、明確な規定がなされていないため、2通りの解釈が出てしまっても仕方がありません。ひとつは2二の仲人を取った時点で▽獅子に足が無くなり、よって取ることが出来る(この場合は付け喰いとは別の次元の事例だとする考え方)とするもの。
もうひとつは▲2二・2一獅子はあくまで同じ手番の「一手」であり、一つ一つを分けて考えるべきではないとする考え方、つまり2二の仲人を取ったとしても、その時点で足がなくなったと考えるべきでは無いので取れない、とする考え方です。
ここでひとつ後者の考え方を主張するのにとても重要な前者論の矛盾点を紹介します。この局面、もし▲獅子が2二と動いて▽歩兵を取った時点で、前者の考え方で言う「同一手順の中で一つ一つを分けて考える」という考え方をした場合に、▲獅子は▽獅子と隣接するので無条件で取ることが可能となるのではないか? という指摘がなされます。
(この問題についてご指摘をくださいましたエドワード氏と翻訳いろいろ請負のspacemanさんに感謝いたします。エドワード氏はインターナショナル中将棋ラダー<海外サイト>でのランキング一位の方<と思う(汗)>です。)
結論として、これは2手ではなく、「1手」だという考え方です。
当面日本中将棋連盟では後者の考え方に従っていくことといたしました。
とりあえず以上です。また違う疑問が出てきました場合にはぜひお知らせいただきたいと思います。
これも日本中将棋連盟が今まで公式ルールとしてきましたのは岡崎ルールの解釈に基づいていましたが、指南抄のルールとは大きく解釈に違いがある点、そして、岡崎ルールと同時期に書かれた『中将棋全集』で解説されているルールが指南抄とほぼ同様であることに配慮し、今後の日本中将棋連盟ルールとしても全集・指南抄ルールを採用することが望ましいと考える次第です。また、2004年度版の改定に当たっては他の団体でのルールなども比較し、一部修正を加えています。
@.獅子と獅子との直接の取り合いについて、獅子同士が隣接する(間が空いていない状態)場合は、お互いの獅子に足の有無は関係なく、獅子で直接取ることが出来る。
A.獅子と獅子が一目間を空けている場合はこれまでどおり、獅子の足・ウラ足がある場合は直接獅子で取ることは出来ない。
B.先獅子の適用については、獅子で獅子を取った場合には適用されない
C.先獅子と付け喰いは、付け喰いを優先する。先獅子の状態であっても付け喰いが出来る状態なら相手の獅子を付け喰いの駒とともに捕獲出来る。
D.付け喰いが出来ない駒は、従来同様、歩兵と仲人の2種類。
E.先獅子が適用されるのは、我獅子に足がある場合のみとする。
以上が、獅子の特殊ルールについての変更点です。Cのみ連盟が補足する形となりましたが、それ以外は中将棋全集に基づく改定となっています。
なお、中将棋指南抄では仲人の扱いが現代と異なる可能性があるため、一部異なる点があります。
獅子・角鷹・飛鷲の3種類の駒にのみ、2手移動が可能という特殊な性能を持っています。
そのため、「行って戻る」という、盤上では駒が移動しない手、すなわち「じっと」という手段を用いることが可能です。ですが、このじっとの使える時、使えないときがあるのではないかと問題になりました。
1.初手(初期配置)での獅子のじっとは出来るのかどうか?
初期配置では、獅子は周囲8マスをすべて味方の駒によって囲まれています。この状態で、行って戻ると言う動きが可能なのかどうか、疑問がもたれました。
可能だとする意見では、駒を飛び越す性能があるのだから、味方の駒の上を通過ではなく、旋回するという解釈も可能ではないかとする意見、
不可能だとする意見では、駒の飛び越しはあくまで通過しないといけないし、、見方の駒の上空で折り返すのはどうなのだろうか?
いろんな見解ができますが、今回の改定ではあくまでじっとは2手移動の中で行って戻るという動きを指しているものと考えることとし、隣接するマスへの1度目の移動が出来なければ2度目の移動も出来ないとして、じっとはできないと規定します。
2.獅子・飛鷲・角鷹の2手移動が可能なマス目に、敵の駒が埋まっている状態でのじっとは可能なのだろうか?
歩 歩 虎 鷲 鷹
たとえば、右の図のような場合、飛鷲の斜め上2方向、角鷹の上方向はともに敵の駒によってふさがっています。この場合、敵の駒を取らずに「じっと」はできるのでしょうか? タダ取りだから取ればいいのですが、先ほどの1.の問題点の解釈に基づき、この状態でもじっとは出来ません。見方の駒でも同様です。
3.飛鷲・角鷹が敵陣の最後列まで侵入している状態の時、じっとはつかえるのだろうか?
飛鷲・角鷹は獅子と違って、2手移動できる方向が限られています。そのため、敵陣の最後列の状態で、2手移動できる方向が盤面によって遮られている場合、じっとを使ってもよいのかどうか疑問が出ています。
これについても1.と同様にじっとは出来ません。
連盟では今回の改定で競技用ルールとしての勝利規定をまとめましたが、江戸時代の中将棋指南抄では次のような規則が記述されていましたので紹介します。
・将棋指し出しより20手すぎては、走り駒王手に当たり、敵よりこれを見つけぬ時はつきおとしにて勝ちなり。
この解釈は考え方によってはいくつかの解釈が出来るとおもわれます。
1.対局開始から20手までは、「王手」の宣言をかけないといけない。
2.手数はあまり関係なく、中将棋では突き落としという勝ち方、つまり相手の王を取ることが出来るという事を小将棋(現代の将棋)と区別するために書いた文章。王手をかけるために20手くらいはどうしてもかかるので20手という言葉が残った。
3.20手までは王手見逃しをしても負けにならない。
<ちなみに王手見逃しは現代将棋では反則負けです>
1と2については今の将棋ルールからみても常識的に判断できる解釈だと思いますが、3の解釈については、世界的にこういうルールが適用されている将棋・チェスゲームはなく、もしこういう解釈をするのなら、突き落としの勝ちを述べる前に、20手までの王手見逃しが許されていると言うことをはっきりと述べるべきだと考えられます。ですのでこれ以下の解説では1と2の解釈を元に解説します。
この文章は現在の中将棋ルールの中で、「王手宣言の不要」と「突き落としでの勝ちを認める」という中将棋独特のルールの根拠となっている文章です。しかし、日本中将棋連盟ではこの原文通りの規定は盛り込んでいません。それは20手までに王手をかけること自体が中将棋ではほぼ不可能であると言うことです。またこの規定を盛り込むと20手以内ならば王手を宣言しなければならないという規定も盛り込まなければならなくなります。
また、走り駒と限定しているのは、小駒での王手は宣言しなくても相手の王と隣接するため気がつきますが、走り駒で遠方からねらった場合、これに気がつかないこともありえるからわざわざそのように書き記したものと思われます。
そのため、日本中将棋連盟の今回の改定では王手宣言の不要と突き落としの勝ちを認める2規則を盛り込むことでこの原文の意図を盛り込む形をとりました。
今回改定のなかで競技ルールとしての規則を追加したのがこの規則です。お手つきについてはこれまであまり明確な規定が存在しませんでした。また、駒に触れただけでお手つきと扱ったり、駒がマス目からはみ出してもお手つきとなるなどの決まりが知られている一方で、駒をすり足で動かすという独特の記述も見られます。
すり足で動かそうが、駒を触った時点でお手つきならあまり意味のある規則とは思われません。またマス目からはみだしても同様なのですり足で動かすことにあまり意味が見いだせないというのが大きな疑問点でした。
また、現行の本将棋でもこのように厳しいお手つきの規則は設けられておらず、今回の改定ではやや緩い規則としながらも、指し駒を確定する規則と、移動先(着手)を確定する規則とに分けてなるべくわかりやすい形でありながら、これまでの中将棋の伝統も一定のところまで配慮する形をとりました。
また、移動できない駒を触ってしまった場合はお手つきとはしない特例措置を前回同様に設けていますが、あまり何度も同じ行為を繰り返しては対局への妨げともなりますので今回の改定で3度目からは反則手として扱う措置を設けました。